猫なのに猫が大嫌いで唸り声を上げるメス猫の話
――人は好き、でも猫は苦手。あるメス猫が我が家に来た理由
猫は猫同士で仲良くするもの。
そんなイメージを持っている方は多いかもしれません。
けれど、私の家には
「猫が大嫌いで、人間は好き」
という、少し珍しいメス猫がいます。
今回は、その子がなぜ我が家で暮らすことになったのか、
そして、なぜそこまで猫を避けるようになったのか。
その経緯を記しておこうと思います。
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発情行動を見て「このままでは危ない」と感じた瞬間
ある日、家の前の道を歩いていたときのことです。
体の側面を地面にこすりつけるように、ゴロゴロと歩く猫に出会いました。
この行動は、
猫が発情期に見せる典型的なサインです。
私は直感的に、
「このままでは妊娠してしまう」
そう感じました。
野良猫の世界では、
望まない妊娠が、さらに過酷な運命を生むことも少なくありません。
そこで私は、捕獲して避妊手術を受けさせようと考えました。
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捕獲できない理由と、餌をあげていた近所の人
ところが、この猫はなかなか捕獲できません。
人慣れしている様子があり、不思議に思っていると、
どうやら近所の方が餌をあげていることに気づきました。
2軒隣の奥様に事情を話すと、
「手で捕まえられるよ」
とのこと。
了承を得て、その猫を保護し、動物病院へ連れて行きました。
• 避妊手術
• ウイルス検査
• ワクチン接種
• ノミ・ダニ駆除
• お腹の虫の駆除
一通りの処置を受けさせました。
奥様の話では、
「1か月くらい前から見かけていた」
とのこと。
人に慣れている様子から、
もしかすると飼い猫かもしれないと思い、警察にも届け出をしました。
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半年後、突然現れた“元の飼い主”
それから半年ほど経った頃。
突然、近所の方が私の家を訪ねてきました。
スマートフォンの画面を見せながら、
「この猫、知りませんか?」
と言われたのです。
画面には、
ピンクのリボンを首につけた、よそ行きの顔をした猫。
「この猫なら、家にいますよ」
そう答え、引き取りに来られたので連れて帰ってもらおうとしました。
ところが――
その猫は、元の飼い主の腕に爪を立て、激しく抵抗し、逃げ出したのです。
何度試しても同じ結果でした。
そして不思議なことに、
結局また、我が家で暮らすことになりました。
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明かされた、衝撃的な過去
そのとき、元の飼い主から聞いた話は、
正直、衝撃的なものでした。
• 経済的な理由で避妊手術ができなかった
• 家の中に、去勢されていないオス猫がいた
• その環境で妊娠し、出産を経験していた
• 生後半年ほどでの出産だった
「いつも冷蔵庫の裏に隠れていた猫だった」
そう聞いたとき、
この子が猫を避ける理由が、少し見えた気がしました。
これは推測ですが、
安心できない環境での望まない交配や出産経験が、
猫への強い警戒心につながった可能性は否定できません。
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猫嫌いでも、人は好きな猫
今、その猫は私の家で暮らしています。
• 猫同士の距離はしっかり取る
• 近づかれると明確に嫌がり唸る
• でも、人間には甘えてくる
そんな、少し不器用で、とても繊細な猫です。
猫にも、
過去の経験が性格に深く影響することがあります。
「猫が猫を嫌い」という事実は、
その子が生き延びてきた証なのかもしれません。
この子は本当によく人間の足に擦り寄り、頭の側面をつけて「好き好き」ってしてくれる可愛い子です。
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猫を理解するということ
この猫の存在は、
私にひとつの大切なことを教えてくれました。
猫を理解するとは、
「猫らしさ」を押し付けることではなく、
その子が歩んできた時間を想像することなのだと。
今日もその子は、
猫とは距離を取りながら、
寝ぼけたときには、他の猫が近づいても、気づきもせず、一緒に寝たり、
人のそばで静かに暮らしています。
