「猫は人を癒す力を持っている」——そんな当たり前のようなことが、実はアメリカの刑務所でも活用され始めています。
日本ではあまり知られていませんが、一部のアメリカの矯正施設では、猫を受刑者と共に暮らさせるプログラムが導入されており、大きな注目を集めています。
ただし、猫の導入はまだまだ例外的。犬の方がはるかに多く採用されているのが現状です。今回はその背景や、実際に猫が導入されている刑務所の事例を紹介しながら、動物と人間の間に生まれる特別な絆について考えてみましょう。
なぜ猫ではなく犬が多いのか?——従順さとトレーニング適性の違い
アメリカでは、受刑者の更生や社会復帰支援の一環として、動物との触れ合いを取り入れる施設が増えています。
中でも多いのが犬とのプログラム。以下のような理由から、猫よりも圧倒的に犬が採用されやすいのです。
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犬は人間の指示に従いやすく、訓練が可能
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介助犬やセラピードッグなど“仕事”を担える
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受刑者に「責任感」や「協調性」を育むプログラムが組みやすい
犬は「おいで」「待て」「伏せ」などの指示を受け入れやすく、社会的ルールの学び直しという目的にも適しているのです。
一方で猫は?——“従わない”からこそ心に響く存在に
猫は犬ほど人間の指示に従いません。「おいで」と言っても来ないこともしばしば。でもそれが、猫の魅力であり、受刑者との間に深い絆を生み出すきっかけになることもあります。
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猫の気ままさが「尊重」を学ぶ機会に
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猫を世話することでストレスや孤独感が軽減
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小さな空間でも飼育しやすく、施設に導入しやすい面もある
「言うことをきかない存在」と向き合うことで、自分をコントロールし、共に生きるという感覚が芽生えていくのです。
アメリカで実際に猫が導入されている刑務所の事例
現時点で、アメリカ全体の刑務所数(約5,000施設)に対して猫を取り入れている施設はごくわずかです。統計上は1%未満と見られています。
しかし、導入されている施設では確かな成果が報告されており、今後の広がりが期待されています。
刑務所のセラピーキャットプログラムで使われている猫たちは、元々は殺処分予定だった保護猫が多いという話はよくあります。
🐾 ニュージャージー州
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Bayside州立刑務所およびSouthern State矯正施設では、地域猫のTNRプログラムを導入。
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受刑者が猫の世話を通じて社会性を取り戻す支援を実施(計150匹以上の猫)。
🐾 オハイオ州 Madison矯正施設
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子猫の一時預かり・社会化プログラムを実施。
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猫の里親探しに受刑者が関わることで、「役に立っている」という感覚を得る支援に。
🐾 インディアナ州 Pendleton矯正施設(FORWARDプログラム)
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猫と受刑者がペアを組み、長期間一緒に生活。
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精神的な安定や暴力的行動の抑制に効果。
🐾 ネブラスカ州 Lincoln郡拘置所
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猫が常に施設内に同居。
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受刑者から「毎日猫の存在が心を救ってくれている」との声も。
🐾 ワシントン州 Monroe矯正施設
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保護団体「Purrfect Pals」との連携で、受刑者が猫の一時預かりを担当。
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猫の社会化と癒し効果を両立。
猫がいることで変わる「空気」
刑務所という閉鎖空間で、猫が持ち込むやわらかい空気。
「今日はこの子にごはんをあげよう」「毛づくろいしてあげよう」——そんな日常が、心のリハビリになることもあるのです。
人間社会の片隅で生きてきた猫と、過ちを犯した人間。
どちらも再出発を目指すという意味で、猫と受刑者の関係は対等であり、希望の象徴にもなり得ます。
まとめ:猫と人間の共生が、刑務所という場所で実を結ぶ日
今はまだ少数派の取り組みですが、猫と人間が「支え合う」関係が、刑務所という厳しい空間でも着実に広がりつつあります。
もし日本でもこうした動きが広がれば、野良猫の保護や地域社会とのつながりにもつながる可能性があります。
猫と人間。どちらも孤独を抱えて生きる時代だからこそ、こうしたやさしい取り組みが、もっと注目されてほしいと思います。